2012年の三冊


今年出版されたものではなくて、今年僕が読んだ本の中から三冊。





・サマー/タイム/トラベラー

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (1) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)

サマー/タイム/トラベラー (2) (ハヤカワ文庫JA)


夏、時間跳躍、青春というキーワードから連想するようなまぶしい青春SF小説ではなく、地方都市の小賢しくて孤立した高校生たちのどこへも行けない物語。
架空の郷土史から都市論に発展させ地方都市を描き、さらにエピローグでありうべき未来を描いてみせる王道SF的な仕掛けを置くという、新城カズマの徹底した作り込みが生きた実にうまい作りになっています。
地方出身の人にはぜひ薦めたいけど、果たしてこれが都会育ちの人にも理解できるものなのかは多少疑問。
ファスト風土化などの地方を扱った社会学に興味を持つようになったのもこの一冊からだったかも。


・ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)


前作にあたる『虐殺器官』って普通に考えたら絶対に続編を作らないタイプの幕の引き方だと思うんだけど、あのラストさえ足場にしてしまう発想にまずすさまじさがある。
思いやりと健康がアメリカ式民主主義のごとく正義として強いられる世界で少女ミアハが選んだ答えとは―みたいな話です。
いやまあ、とにかく、ハーモニーは琴線に触れるというよりは純粋にすごみに圧倒された感じでした。
ネタバレなしでは少し書きづらい。


・式の前日

式の前日 (フラワーコミックス)

式の前日 (フラワーコミックス)


表題作は、えっそこでそういう裏切り方するの!というような、おもしろくもあるしがっかりもするようなびっくり短編感が強かったんだけど、『モノクロ兄弟』という短編がすごくよかった。
初老の双子の兄弟が高校時代に二人とも好きだった女性の葬式帰りに居酒屋で久しぶりに語り合う。
よく似た二人が向かいあう合わせ鏡の中で追憶をする兄弟。だがその合わせ鏡の卓の外で在りし日の彼女によく似た姿の店員が働いている。
なんてスリリングな作り。これはちょっと、大したものですよ。
鏡と同窓会というおもしろくならないわけがない仕掛けが二重に詰め込まれてて実に秀逸。すごいよこれは。



というわけで、以上が僕の今年の三冊でした。
五冊に増やしたらどうなるかなってちょっと考えてみたけど、『リバーシブル!2』と『ケータイ小説的。──"再ヤンキー化"時代の少女たち』を入れるかな。


今年は読書習慣の復活に成功してぼちぼち読みました。来年はもっといろいろ読みたいですね。