音ゲーにおける「導線」を中心としたゲームデザインについて

はじめに

今回は「音ゲーマー達の発信所」という企画に参加させてもらったので、こちらの企画のための記事でもあります。
楽しそうな場に参加させていただきました。他の方のエントリも楽しみです。
少し堅苦しい話に思うかもしれませんが、よろしくお願いします。

音ゲーゲームデザイン

さて、音楽ゲームゲームデザインと題させてもらいましたが、「音ゲーにおけるゲームデザイン」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
操作を指示するノーツの出現の仕方、実際のデバイスのデザイン、操作に対してプレー音は鳴るのか、それはキー音なのかレスポンス音なのか、判定ラインはあるのかないのか、判定は辛いのか甘いのか、その種類は、スコア計算式は、スコアランクは。
そういったデザインを思い浮かべる人が多いかとは思うが、今回は少し違うところに目を向けた話です。
普段意識することの少ない、それより大きな外枠の話について、考えてみようと思います。


そもそも、音ゲーとは何をするゲームでしょう。
「音楽があって、操作の指示があって、それに可能な限り精確に応えるゲーム」というのは実は狭い見方です。
「マリオってどんなゲーム?」と聞かれて、「クリボーがいたら避けたり踏んだりして、パックンフラワーが出てきていない時に土管に乗って、動く床の上を落ちないように移動して……」と答える人はいないと思います。
「敵を避けたり倒したりしながらゴールを目指すゲーム」と答えるんじゃないでしょうか。


つまり、音ゲーとは「すべての譜面を指示通りにプレーすることを目指すゲーム」と答えるのが正解です。
一曲一譜面単位ではなく、すべての譜面についてオートプレーと同じ結果を出すことが最終目標です。
Guitar FreaksやProject DIVAやGROOVE COASTERなどは特殊なボーナスがあって、時には指示を無視したり指示外の操作をした方が高いスコアが出ますが、概ねはこの通りでしょう。


ちょっと待ってくれそんなことは目指していない、と思う人もいるだろうけれど、何か具体的な目標を持ってプレーしているのであればそれらはすべて、先ほどの最終目標への小さな一歩に過ぎないはずです。
ノコノコの甲羅で無限1UPするのを楽しんだり、ジュゲムの雲に乗ってどこまで行けるか試したりするような遊び方を否定する気はありませんが、それはクッパに至る道ではありません。


少し乱暴にまとめてしまいましたが、音ゲーにはこういった最終目標が前提として内蔵されているという考え方のもとに話を進めていきます。
その上で、どのようにその目標へとステップアップできるようにデザインされているゲームなのかを考え、ついでに僕が現状の音楽ゲーム各機種に対して不満に感じている点も述べていきたいと思います。

ゲームに内蔵された「導線」

先のマリオのたとえを繰り返し使わせてもらうなら、音ゲーはおよそ、1-1からクッパの城までのすべてが最初から攻略可能なゲームデザインです。
ポップンミュージックに100円玉を入れれば、ファンタジーNからサイレントEXまで誰でも選曲可能です。
プレーヤーは最初に、何をすればいいのでしょうか。
ほとんど指示のないままに、「好きな曲を選んでみよう!」と言ってくるのは、事前になにかしらの知識があることを前提にした勝手なこととも取れます。


Nintendoの優れたアクションゲームにはチュートリアルが内蔵されています。
いきなりハネクリボーやパタパタが出てくることはなく、まずはクリボーやノコノコが出てきます。動く床は徐々に複雑になっていくし、ヨッシーの種類もだんだんと増えていきます。


一方、音楽ゲームのゲーム性は古くはかなりシンプルで、言い方を変えればユーザーに投げっぱなしな節さえあります。
音楽に合わせてボタンやパッドを叩く、音が出たり判定が出たりする、難しい曲がクリア出来るようになる。
これの繰り返しでステップアップし、いずれ最終的な目標に到達する過程を楽しむゲームでした。


こうしたシンプルな面白さを軸とした中では、楽曲の良し悪し、収録されている譜面の出来、収録曲の難易度バランスというところでゲーム性がデザインされてきたのでしょう。
ColorsやABSOLUTEをプレーする前に、「先に.59をプレーするのがオススメですよ」なんて親切に教えてはくれないけれど、それを手探りで見つけていくおもしろさといのもあったと思います。
プレーヤーは膨大な数の譜面の中から、手探りでプレーし、目標を見つけ、少しずつ達成しながら上達していくものでした。


しかし、音ゲーにもきちんと最終目標へと小さな目標を達成しながらステップアップができるように「導線」が内蔵されています。


例えば、まずは難易度表記。
現行、もっとも幅が小さいjubeatでも10段階、もっとも大きいギタドラでは999段階(事実上はさておき)となっている。プレーヤーはこれを参考にしながら、プレーすることでぐっと目標が見つけやすくなります。
そして、多くのプレーヤーが強く意識をしているのが称号です。
段位認定、スキル、ネームプレート、ユビリティ……枚挙に暇はありませんが、自分の実力を把握することができると同時に次の自分の目標にすべきものがすぐに見つかるという点で非常に優れたものです。
他にも、ライバルとの比較や、インターネットランキングなど、多くのものが用意されていて、それらを元に自分の目標を決めて邁進して行けばよい、という作りになっています。 
好きな曲のスコアをとことん詰めたい人はライバルやランキングなどを使えばいいし、他人からわかりやすく実力を認められたいのであれば称号を獲得していけばいいし、総合的に実力をつけたいと思う人はレベルごとにクリアやフルコンボを埋めていけばいいわけです。
そうした「導線」として機能する難易度づけや称号によって、さあこのゲームをどんどん遊んでいこうと脱初心者した人から超上級者までをサポートすることが音ゲーにおけるゲームデザインのひとつではないでしょうか。


何を当たり前のことを言っているのか、と思うかもしれませんが、こうして音ゲーのデザインについて改めて捉え直してみることで、現状のゲームデザインについて考え直すことができるはずです。

「導線」の種類


ここからは実際のゲームでどのような「導線」がデザインがされているのか、そしてそれは十分な指標として機能しているのか、という視点から考えていきます。


・難易度
ゲームごとに段階は異なりますが、すべてのゲームに搭載されていると言っていいでしょう。
そして同時に、難易度づけがなされている音ゲーには必然的に「埋めプレー」という導線がビルトインされていると言うこともできます。
難易度ごとのすべての譜面をクリア、スコアランクの達成を狙って、幅広く選曲をすることで苦手を潰して上達が見込めます。
反面、難易度づけが適切でなかったり、曲数が非常に多かったりすると目標の達成が困難になってしまうので、導線として維持するにはバランスの調整が非常にむずかしいものでもあるかもしれません。


・称号
ゲームによって、段位、スキルカラー、ユビリティ、レーティングなどと様々なネーミングやシステムではあるが、かなり一般的なものになっています。
基本的には、前述の埋めプレーとは逆にある程度、選曲の幅を狭める方向でデザインされているものが多いのが特徴です。
そのため、総合的な実力(いわゆる地力)を攻略で補うことができる場合もあります。
他人と比較がしやすく、達成と同時に次の目標がある程度自動的に見えてくるシステムであるのも魅力的です。


・ランキング、イベントなど
インターネットランキングや、楽曲解禁イベントなど、音楽ゲームにはバラエティ豊かなイベントが用意されています。
特定の楽曲をプレーしたり、特定のランクを達成することでイベントが進行したり、純粋なプレー回数で進行したりとその種類は様々です。
ひとまず目標を考える上での導線の一つになるようなイベントも多いですが、ひとつひとつ詳細に語ると膨大な長さになってしまうため、ここでは割愛します。


beatmaniaIIDXのデザイン

ここからはbeatmaniaIIDXを中心に見ていきます。
正直なところ、僕はこのゲームのデザインについて不満が多くあるので、批判的になってしまっていますが、ご容赦願いたいところです。


このゲームには、段位という指標がかなり明確に用意されていて、段位によって選曲制限が緩和されるなど、単なるステータスだけの称号ではなくゲーム性にも大きな影響を与えています。
段位の存在感は極めて大きくその意味では定着に成功した導線でもありますが、段位認定はたった4曲を専用のゲージで抜けるだけでいいものです。
スコアは一切関係がなく、通常のプレーでは使用頻度の高いオプションが禁止されていることからも、実力の指標としては不十分な点は多いでしょう。
そもそも、900曲も収録されているゲームの実力検定としては4曲だけというのは根本的に無理があるように思います。


段位ごとの達成率表示や、通常よりも厳しい完走条件にすることもできますが、特別な取得演出や称号があるわけでもなく、ユーザーもその差異についてはそこまで気にしていない節があるように思います。
段位による選曲制限の緩和についても、悪意を持って見れば「そうしたメリットをつけなければプレーヤーから無視されうる導線」とも言えるかもしれません。
そして、逆に段位認定以外の「導線」は少ないと言えます。


曲ごとのランキングは週替わりに新曲で行われるWEEKLY RANKINGのみで、全一や県一などのスコアも近作では参照がしづらくなっているし、5曲通しでプレーするコースランキングも前作からは廃止されています。
難易度づけが12段階と大雑把なものであるのに対して、Single Playだけで2700譜面近くもあり、難易度ごとの埋めプレーはかなり困難です。
曲ごとの達成率の合計値であるDJ POINTという指標もありますが、こちらもランキングは廃止されていて、全曲を毎作一度以上いずれかの譜面でプレーしてからがスタートというハードルの高さも問題です。


以上のように、シリーズが長く続いて楽曲数が膨大になったために、かつて機能していた「導線」が弱くなっているというのが現状のように思います。
つまり、今、何を目指せばいいのかをゲームの側からほとんど教えてくれない、ということです。
打開策としては、難易度の細分化がもっともシンプルかつ強力ですが、現実問題としてそれはむずかしいでしょう。
シリーズが長く続くと、ユーザーは慣れ親しんだものが大きく変更されることに抵抗ができてしまいますが、IIDXは特にプレーヤーからのそうした反発が大きいゲームであるように思えます。


となると、既存の「導線」の強化、あるいは新規に別の導線を用意するしかありません。
強化の方向性で考えるなら、例えば段位認定では、より実力の指標として妥当なものとなるように、段位を受ける前提として指定楽曲のクリアやスコアなどを条件にしたり、次ステージに進出するためにスコア条件を設定したり、と選曲だけにとどまらない大幅な難易度調整を行うことなどが思い浮かびます。
埋めやDJ POINTの面では、指定フォルダのDJ POINTや楽曲クリア数、フルコン数などを条件にした実績などを用意するなど、といったところでしょうか。
新規に用意するのであれば、称号などにしても、なるべく目立って満足感のあるようなものでなければ、プレーヤーの関心を惹くことはできないかもしれません。
いずれにせよ、達成を目指していくことで幅広く確かな実力を育てていけるような「導線」を張り直すことが今のIIDXには必要なのではないでしょうか。

おわりに


お前は制作者なのかよ、と言われるのを承知でここまでIIDXの導線に対して批判的に書かせてもらったけれど、こうした点への意識がどうにも薄いように思えるのが気になっていたので、偉そうなのを承知で書かせてもらいました。
特に、現状の実力の指標としては不十分な段位認定への意識が強すぎて苦しんだり、周囲を不快にさせているプレーヤーを見るたびに、もっと正当な、そして様々な角度からの指標があればよいのに、と思います。
それは評価システムを、SNSを中心としたプレーヤー間のコミュニケーションに任せっきりなことからも強く感じます。
動機付けを友人という他者から、内部的なものへと移行するための装置としても、ゲーム内にステップアップのための導線を充実させてほしいところです。
もっと単純に言えば、僕だってもっとゲームに褒めてもらう機会が増えてほしいし、挑戦しがいのある課題を出されたいです。



大変長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
IIDX以外のこうした音ゲーのデザインについては、またいつか、時間と気力があったら書くかもしれません。