大学生2


前回の続き。




二つ目のサークルは社会哲学研究会、略して社哲というところ。四、五人の会員に加えて、フリーライターやバーのマスターと言ったよくわからない人たちが顔を出していた。
もともとはここの人が始めた音楽批評サークルに入ったつもりだったんだけど、気づけば社哲の一員になっていた。革マルなんかとは慎重に距離を置きつつもやっぱりバリバリの左翼だったので、厳格な管理体制の敷かれた部室棟で禁を破って鍋をやって酒を飲んで煙草を吸うなんてのはお手の物だった。
仮面浪人経験者の先輩や、三留もしてるくせにいつまで経ってもカンボジア旅行から帰ってこない先輩たちがなにやらデリダだのドゥルーズだのの話をしている空間は十代の僕にとっては不思議で魅力的だった。
奇妙な経緯で入ることになったサークルでもあったので、結局僕はほとんどまともに哲学を勉強はしなかったのだけど、先輩が作った膨大なCD-Rライブラリでテクノやニューウェーブやレゲエの名盤をひたすら聞きあさって煙草を吸って過ごしていた。上京してひとり暮らしの大学生という立場の自分がなにをしてもいいのだ、と気づいたのは社哲の人たちの影響があったかもしれない。講義をサボって聴くレゲエの素晴らしさよ!
ゴールデン街のあやしげな酒場や妙なイベントに連れていってもらったりと随分とお世話になったものだけど、なんとなく居づらいものを感じるところもあって足が遠のいてしまった。今ならもっと哲学にも関心があるのに、と思わなくもない。時すでに遅しもいいところだけど。
この間、久しぶりに外から部室を覗いてみたら、相変わらず謎のフライヤーやポスターで壁から天井まで埋めつくされていた。
健在のようでなにより。社哲よ永遠なれ。